思うがまま。
ゆっくりまったり。
飛べない鳥と天使の日(10.04)
- 2022/10/04 (Tue) |
- 7D2020飛鳥班 |
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これは乗っかるしかないと思った。
いつも通りの夕方だと思っていた。いつも通りにクエストを受けて、チェロンに報酬のDzを貰って自室に帰ってベッドに突っ伏する。夕飯は食べたくない。食べる気がしない。そう言うといつもおっさんが食べなきゃ大きくなれないぞって言いだすけど知らないよ。だいたい僕はもう大きくなんてなれないじゃないか。強くなりたいとは……思うんだけどさ。
「あーあー、ティナってばまたそんなゴロゴロしてー!そんなんじゃ大きくなれないんだぞ」
めちゃくちゃ聞き慣れた、聞き慣れないはずの言葉が聞こえた。枕から顔を上げるとそこには高い声に違わぬ可愛らしい女の子が頬を膨らませて立っていた。
「ステラ、おっさんの真似なんてやめてくれる?ただでさえ疲れてるのに余計ぐったりするから」
何かの本で読んだ『鈴を転がすような』っていう言葉は彼女のためにあるんだと思う。長くふわふわした金色の髪も、華奢で触るとうっかり壊してしまいそうになる身体も、それを包み込むふわふわのドレスも、そしてころころと表情を変える可愛くて可愛い顔も――。
「皆疲れてるだろうからキールとミーア?それともルスカだったかな?とにかく二人が急いでご飯にしてくれるって。だからティナも呼んできてって頼まれたんだ。そしたら君ってばその恰好じゃないか。だらしないのはダメだよ?」
ステラがびしっと音を立てそうな勢いで僕を指さしてくる。多分それはそう、僕が帰ってきたままの姿で突っ伏してたことを言ってるんだろう。僕も外の世界に出てきてからしばらく経ったからなんとなく言いたいことは理解した。でもだからといって譲れないこともある。
「ほっといてよ」
ステラの表情が陰るのを見た。それ以上は見たくない。元の通りに顔を伏せる。
「……僕があまり食べられないのは知ってるでしょ。ステラ達が食べたいならそうすればいいよ。僕はいらない」
嘘は言ってない。…………確かに、どうしても必要で嘘をつくことはある。でも、本当に身体が受け付けないんだからしかたない。前は肉とか脂身を避ければなんとか喉を通せたけど、今はもう誤魔化しがきかない。沈黙が流れる。分かってはいるんだけど、どうしようもない。僕は、君達とは違うのだから。
「…………わかった」
小さくささやくような声とドアの開閉する音が聞こえた。遠ざかっていく。ドアに遮られて聞こえないはずの足音が駆けていく。
「そう、これでいいんだよ」
寂しいなんて思っちゃダメだ。後のことを思うなら、僕のために悲しませるのを避けるなら、関わり合いは最低限にすべきなんだ――。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。二、三まばたきをすると少し意識がはっきりしてきた。重い身体をゆっくりと起こす。外はすっかり夜更けのようで、閉められたカーテンの向こうから微かな寝息が聞こえる。
「この時間なら風呂に行っても大丈夫かな」
この都庁、緊急で作ったことはよくよく知ってるんだけど、なぜか風呂が混浴だ。いや、すぐ作れて一気にたくさんの人を入れるにはでかい風呂をひとつドーンと置けばいいとは聞いたし分からなくもないけどそれはさすがにどうなの?少し資材に余裕ができてきたら分けると思っていたのになぜか水着を作って売りだす方向に行ってるし、それ違くない??
……いやまあ、僕が他人と風呂を分けたいのはまた別の理由があるんだけど。と、ベッドの側に何かが置かれているのに気付いた。なんだろうと顔を寄せた先に見えたのは皿の上に並べられた天使の形の米粉クッキーだった。そういえば、居住区で誰かが天使がどうとか言ってたような気がする。十月四日は「てん」と「し」で天使の日、とか。日本人が好きな語呂合わせってやつだ。
そうか、だから僕を連れ出そうとしたのか。ようやく理解した。僕が常に羽織ってる外套の下には黒い翼がある。普通人間に翼なんて生えていないから皆に見られないように隠しているけど、どうしても四六時中一緒にいる13班には隠し通せなくてバレてしまっているのだけど、それ以外の人間には、ミロクにもキリノにも絶対に言わないよう強く言い聞かせている。それにしても。
「天使って普通白いイメージなんじゃないかな」
現に皿の上のクッキーも白さを出すために米粉を使っている。普通だったら小麦粉で焼いて砂糖で固めて白くするところなんだろうけど、僕はそういうの苦手だから遠慮してきた結果いつの間にか甘さ控えめのお菓子を作る方向におっさんがしていった。……いや、それはどうでもいい。そうじゃなくて、あの時居住区の人が言っていたのは。
『天使様にお祈りするの』
『天使様が神様にお願いを運んでくれるの』
クッキーの下に敷かれていた紙に、チョコペンで文字が書かれているのに気付いた。
――――ティナが元気になりますように――――
「――!」
夜中なのに思わず声が出かかった。かろうじて飲み込んだけどこれは。
「これは反則じゃないの……」
こんなのずるいよ。酷いよ。だって、これは叶えてあげられないんだもの。この世界に神はいないし、天使もいない。天使を作ろうとした人間は竜災害で死んで、作られた天使は出来損ないで空を飛ぶどころか一ミリも、一瞬ですら浮くこともできない。しかも度重なる人体実験で身体はボロボロでいつ死んでもおかしくない状態ときた。……うん、我ながら酷いよこれ。僕自身はそういうものだって思わされてるからいいけど聞いた人間が皆真っ青になるはずだよ。……そういう顔が見たくないから言わないように、バレないようにしてるんだけど。
「願って叶うなら、せめて」
せめて、この竜災害を終わらせて綺麗に晴れ渡った空の下で微笑む君の顔が見たい――。
どうか、僕が死ぬまでに叶えられますように。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ティナフロウ:アングラ♂cv下野
ステラヴィア:オタク♀cv加藤
キールナティア:エージェント♂cv杉田(※おっさんと呼ばれてた人)
ミーアルスカ:パワフル♀cv加藤(※ミーア・ルスカに分かれてる二重人格の人)
雰囲気話。オチがない……。ティナが羽バレしてるのとだいぶボロボロなので割と後半だと思われ。
「あーあー、ティナってばまたそんなゴロゴロしてー!そんなんじゃ大きくなれないんだぞ」
めちゃくちゃ聞き慣れた、聞き慣れないはずの言葉が聞こえた。枕から顔を上げるとそこには高い声に違わぬ可愛らしい女の子が頬を膨らませて立っていた。
「ステラ、おっさんの真似なんてやめてくれる?ただでさえ疲れてるのに余計ぐったりするから」
何かの本で読んだ『鈴を転がすような』っていう言葉は彼女のためにあるんだと思う。長くふわふわした金色の髪も、華奢で触るとうっかり壊してしまいそうになる身体も、それを包み込むふわふわのドレスも、そしてころころと表情を変える可愛くて可愛い顔も――。
「皆疲れてるだろうからキールとミーア?それともルスカだったかな?とにかく二人が急いでご飯にしてくれるって。だからティナも呼んできてって頼まれたんだ。そしたら君ってばその恰好じゃないか。だらしないのはダメだよ?」
ステラがびしっと音を立てそうな勢いで僕を指さしてくる。多分それはそう、僕が帰ってきたままの姿で突っ伏してたことを言ってるんだろう。僕も外の世界に出てきてからしばらく経ったからなんとなく言いたいことは理解した。でもだからといって譲れないこともある。
「ほっといてよ」
ステラの表情が陰るのを見た。それ以上は見たくない。元の通りに顔を伏せる。
「……僕があまり食べられないのは知ってるでしょ。ステラ達が食べたいならそうすればいいよ。僕はいらない」
嘘は言ってない。…………確かに、どうしても必要で嘘をつくことはある。でも、本当に身体が受け付けないんだからしかたない。前は肉とか脂身を避ければなんとか喉を通せたけど、今はもう誤魔化しがきかない。沈黙が流れる。分かってはいるんだけど、どうしようもない。僕は、君達とは違うのだから。
「…………わかった」
小さくささやくような声とドアの開閉する音が聞こえた。遠ざかっていく。ドアに遮られて聞こえないはずの足音が駆けていく。
「そう、これでいいんだよ」
寂しいなんて思っちゃダメだ。後のことを思うなら、僕のために悲しませるのを避けるなら、関わり合いは最低限にすべきなんだ――。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。二、三まばたきをすると少し意識がはっきりしてきた。重い身体をゆっくりと起こす。外はすっかり夜更けのようで、閉められたカーテンの向こうから微かな寝息が聞こえる。
「この時間なら風呂に行っても大丈夫かな」
この都庁、緊急で作ったことはよくよく知ってるんだけど、なぜか風呂が混浴だ。いや、すぐ作れて一気にたくさんの人を入れるにはでかい風呂をひとつドーンと置けばいいとは聞いたし分からなくもないけどそれはさすがにどうなの?少し資材に余裕ができてきたら分けると思っていたのになぜか水着を作って売りだす方向に行ってるし、それ違くない??
……いやまあ、僕が他人と風呂を分けたいのはまた別の理由があるんだけど。と、ベッドの側に何かが置かれているのに気付いた。なんだろうと顔を寄せた先に見えたのは皿の上に並べられた天使の形の米粉クッキーだった。そういえば、居住区で誰かが天使がどうとか言ってたような気がする。十月四日は「てん」と「し」で天使の日、とか。日本人が好きな語呂合わせってやつだ。
そうか、だから僕を連れ出そうとしたのか。ようやく理解した。僕が常に羽織ってる外套の下には黒い翼がある。普通人間に翼なんて生えていないから皆に見られないように隠しているけど、どうしても四六時中一緒にいる13班には隠し通せなくてバレてしまっているのだけど、それ以外の人間には、ミロクにもキリノにも絶対に言わないよう強く言い聞かせている。それにしても。
「天使って普通白いイメージなんじゃないかな」
現に皿の上のクッキーも白さを出すために米粉を使っている。普通だったら小麦粉で焼いて砂糖で固めて白くするところなんだろうけど、僕はそういうの苦手だから遠慮してきた結果いつの間にか甘さ控えめのお菓子を作る方向におっさんがしていった。……いや、それはどうでもいい。そうじゃなくて、あの時居住区の人が言っていたのは。
『天使様にお祈りするの』
『天使様が神様にお願いを運んでくれるの』
クッキーの下に敷かれていた紙に、チョコペンで文字が書かれているのに気付いた。
――――ティナが元気になりますように――――
「――!」
夜中なのに思わず声が出かかった。かろうじて飲み込んだけどこれは。
「これは反則じゃないの……」
こんなのずるいよ。酷いよ。だって、これは叶えてあげられないんだもの。この世界に神はいないし、天使もいない。天使を作ろうとした人間は竜災害で死んで、作られた天使は出来損ないで空を飛ぶどころか一ミリも、一瞬ですら浮くこともできない。しかも度重なる人体実験で身体はボロボロでいつ死んでもおかしくない状態ときた。……うん、我ながら酷いよこれ。僕自身はそういうものだって思わされてるからいいけど聞いた人間が皆真っ青になるはずだよ。……そういう顔が見たくないから言わないように、バレないようにしてるんだけど。
「願って叶うなら、せめて」
せめて、この竜災害を終わらせて綺麗に晴れ渡った空の下で微笑む君の顔が見たい――。
どうか、僕が死ぬまでに叶えられますように。
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ティナフロウ:アングラ♂cv下野
ステラヴィア:オタク♀cv加藤
キールナティア:エージェント♂cv杉田(※おっさんと呼ばれてた人)
ミーアルスカ:パワフル♀cv加藤(※ミーア・ルスカに分かれてる二重人格の人)
雰囲気話。オチがない……。ティナが羽バレしてるのとだいぶボロボロなので割と後半だと思われ。
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